代表ごあいさつ | 研究概要 | 研究体制


 畜産は地域の重要な基盤産業ですが、人口減少下での国内需要の低迷、従事者の高齢化などの課題を抱える一方、TPP協定発効後に向けた動きの中で、海外との競争力強化も望まれています。日本の畜産農家の牛の飼養規模は毎年拡大していますが、牛の人工授精の受胎率低下や疾病に伴う経済的損失など生産性を阻害する問題もあります。このような畜産の大規模化や病気による損耗が少ない高品質牛肉・乳生産を支える技術として、近年、少人数で牛群管理を可能とする畜産スマート技術の開発・導入が注目されています。

 牛の受胎率の低下や生産病などの疾病の多発は、優良な子牛の生産や、肥育や搾乳などの生産性の高水準化の実現にとって大きな阻害要因となっています。牛の繁殖機能や栄養・健康状態などの様々なバイタルサイン(生命情報)を連続的にモニタリングして、必要な牛の生体情報を個体ごとに「見える化」し、随時利活用できる技術の開発・普及が進めば、受胎率向上などの繁殖管理や生産病防除などの健康管理の大幅な改善に寄与できる可能性があります。現在、動物やヒトにおいて、自然な状態での行動や生理機能の変化を把握する様々なタイプのワイヤレスセンサ開発が進められています。我々は、低消費電力・超小型化・低コスト化が可能なMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を活用することで、牛の排卵・分娩時期の高精度検出や、ルーメン(牛の第一胃)機能・体温・ストレス状態などの生体情報をリアルタイムで検出できる、牛への負担感が少ない実用的なウェアラブルセンサ開発と利用技術の構築が実現可能になると考えています。

 我々は、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」において、牛を研究対象とした「生体センシング技術を活用した次世代精密家畜個体管理システムの開発」を実施しています。本プロジェクトは、農研機構を中核機関とし産総研など国内22研究機関で構成され、獣医・畜産学及び工学分野の農工連携で研究を推進しています。日々変化している牛の繁殖機能や健康状態などの様々なバイタルサインを長期間にわたって常時モニタリングすることで、的確に授精適期を把握し牛の受胎率向上や消化器疾病、肺炎、ストレスなどの早期診断による生産病の低減対策に貢献できる技術開発を目指しています。

新井 鐘蔵(Shozo Arai)
 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
 動物衛生研究部門



 牛畜産業においては、 牛の人工授精の受胎率低下、分娩管理の負担増など繁殖管理の問題や成牛の濃厚飼料多給に伴う消化器病、子牛の肺炎(呼吸器病)、ストレスなどの生産病の問題が顕在化しており、強い牛畜産業づくりを進める上でこれらの問題の解決が急務となっています(→ 畜産及び畜産センサの現状と課題)。

 このような状況を踏まえ、本プロジェクト「生体センシング技術を活用した次世代精密家畜個体管理システムの開発」では牛の受胎率向上ならびに生産病の低減を図るため、畜産センサ研究コンソーシアムが次のような研究を実施しています。
  • 授精適期の高精度検出や分娩予知、ルーメン機能・体温・ストレス等の牛の生体情報の検出ができる低消費電力・小型・低侵襲・低コストな実用型無線センサ端末を開発
  • 牛の精密家畜個体管理システムの構築による受胎率向上と生産病の早期診断・予防を実現
 研究期間は2014年から2018年までの5年間で、プロジェクトの最終的な開発目標は以下の通り。

1)繁殖成績向上のための精密個体管理システムの開発
  • センサシステムを用いた授精適期判定による人工授精の受胎率を70%とする。
  • 周産期管理の改善により分娩間隔を20日以上短縮する。
2)高度飼養管理と生産病防除のための精密個体管理システムの開発
  • センシシステムを用いた生産病の早期診断技術を開発する。
  • センサシステムを用いた生産病の治療費の半減効果を実証する。








研究体制としては、産学官のリーディング22機関が結集して畜産センサ研究コンソーシアム(研究代表機関:農研機構 動物衛生研究部門)を設立し、本プロジェクトの研究開発を進めています。



 
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